【1】 多夏美「パンクしてる。この天気の中、走るのは厳しいね」 千秋「多夏美のとこは?大(たい)ちゃん。今日はどうしてるの」 多夏美「おばあちゃんに預けてある」 千秋「お互い今日連れてくればよかったね」 春香「子供連れてくるって。どういう神経してんの」
【2】 春香「千秋に何をどう説明した?どういうつもりでついて来てるの」 多夏美「皆で、ドライブに行かない?って誘った。本来の目的は隠して」 春香「それでか。完全に小旅行のつもりで来てるじゃない」 多夏美「そうでもしなきゃ。だって千秋だけよ。車持ってるの」
【3】 多夏美「ここ一度、来た事があるの。別れた旦那の知人が所有していた」 冬子「別れたわけじゃないでしょ」 多夏美「勝手に姿消したんだから一緒よ。彼が管理を依頼されたの。でも結局、お断りして、今は誰が管理しているのか。この家の前に立つまで、記憶の奥底に沈んでた」
【4】 多夏美「あの。有端さんは?」 相神「ご存知なんですか。有端を」 多夏美「以前、少しだけ面識が」 相神「相神と言います。有端の友人でこの建物を管理している者です」
【5】 しばらくして金弥がラウンジに入ってくる。 2人は激しく口論をしているが、雨音にかき消されている。 やがて相神が金弥に掴みかかる。
【6】 大海「はっきり言って、こんな場所に建つこの家の価値なんて、たかが知れてる。それがだよ。家族捨ててまで、ここで何を守ってんだって話。何かあるのか」 金弥「いえ。友人との約束ですから。ポーカーでよろしいですか」 大海「だーかーら。そんな理由はどうでもいいよ。本当の事を言え」
【7】 大海「今更善人ぶるな。お前が今までしてきた事だって胸張れるのか。ここで会ったのも何かの引き合わせだ。金ならいくらでも出す」 金弥「専務。これ以上関わらない方がいい世界もありますよ」 大海「偉そうに説教してんじゃねぇよ」
【8】 埴生「アンタは誰だ。見ず知らずの人間と、こうして手錠で繋がれるなんて。普通の状況じゃないな」 相神「私は、ここで建物を管理している者です。アナタは? 」 埴生「俺は…何か、仕事を…。…いや、記憶が抜け落ちてるな」
【9】 相神「私の名前が必要ですか。聞いた所で無駄でしょう」 埴生「俺達に接点がないように見えても、どうかわからない。世の中に本当の偶然なんてないと思うんですよ。あるのは必然の積み重ねで。俺らの「縁」が見えてくるかもしれないし」
【10】 有端「誰もいないお店に、一人、自分ではない存在がいたら、店員さんだと思い込んでしまったと」 相神「その寓話の教訓は?」 有端「先入観は時々、邪魔になる」
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撮影者:佐藤淳一 ※この画像の著作権は団体並びに撮影者に帰属します。