概要 of #021 PerformenIV~Inferno~

DSC_0107.JPG
_DSC0321.JPG

aori1.png
彼は絵描きと出会う。絵描きは、林立するビルの谷間にひっそりと座って、街行く人間を描いている。何がそうさせたのかはわからないが、ふと足を止めて、彼は絵描きに問いかけた。見れば絵描きは、珍しい方法で描いていた。キャンバスに点を打ち、律儀に定規で点と点とを線で結び、幾何学的な模様を描いている。点と点とで結ばれたその幾何学的な文様は、改めて見てみるとまさしく人間の形をしたそれであった。正確には、人間の形をした模型の図である。忘れもしない。それは彼がまだ少年だった頃、父に買い与えられた「パフォーマン」という動く人形の設計図だった。

DSCF0487.JPG少年だった頃、彼は父親に育てられた。父親は世の中を至極退屈なものだと捉えていた。人間は一見、自分の意思を持ち、それに従って生きているようだが、実際はそうではなく、もっと「何か大きな意思」によって生かされているにすぎないのだと、父親は常々ぼやいていた。少年には、どういう事かわからなかった。父親はたびたび、それを「歯車」だとか「ピストン」だとか「器」というわかりやすい言葉に置き換えたが、それでも少年にはわかりにくかった。少年は日々、自分の意思で生きていると思っている。腹が減った時には何かを食べ、のどが渇いたら何かを飲み、眠くなったら眠る。常に自分の事を決めているのは自分自身であると、疑う余地もなかったはずだ。
DSCF0117.JPGだが父親は言う。「人は、何かに動かされていても『自分で動いている』と思い込む事が殆どだ。」と。その姿は、まるで人のように律動する人型「Performan(パフォーマン)」なのだと。少年は外の世界に目を向ける。日常の世界は何の変哲もないように思えるが、言いかえれば、毎日毎日同じ事を繰り返しているだけだとも言える。人々は毎日同じレールの上を延々と歩く。そしてそれは、少年が思っていたのと同様に、すべて自分の意思であると思いこんでいるに違いない。「何か大きな意思」に生かされているとも知らず。「『何か』に動かされているならどうして自分達は存在しているのか。生きている事に意味があるのか。」父親はその疑問を持ち、「何か」に対して反乱をおこし、一人戦いを挑んでいたのだ。均整の取れていた退屈な日常は、父親の反抗により多少の歪みを生んだ。歪んだ世界は確かに退屈なものではなくなったが、今まで生き方を「何か」に委ねてきた人間達は、ねじ曲がったレールの上でただただ、混乱をするばかりであった。これが父の望んだ世界なのか。少年はようやく気付いた。この世の中の人間はすべて「Performan」なのだと。そしてそれには当然、自分も含まれているのだと。
DSCF0366.JPG父親は「何か」に何度も何度も抗って、その度に敗れた。戦う父親の姿を見ながら、少年は成長する。「Performan」は自分たちを産み出した「何か」に勝てない。ただ、自分はそれでもいいと思った。退屈な世界で、ただ生かされているだけの存在であるとしても、自分はまずそれに気付いたのだから。他の誰もが未だ自分の意思だけを信じていても、必ずしもそうではないことを、自分は知っている。自分は世界の在り様を捉えつつある。世界の端っこにようやく立つことができたのだ。身をもってそれを教えてくれた父親は、今はもういない。少年は成長して彼になり、今、自分を哀れな「Performan」だと認めながら一人で、画一化した個性のない世界に向き合っている。

serihu.png
DSC_0171.JPG人を創り、支配しているものとは何か。「人は点と線で描き切れる」と豪語した絵描きの師ならば知っているのではないか。穴の底にいるというその男を追い、世界の深い場所までたどり着く。しかし、穴の底でその答えは見つからなかった。ひとつ見つけたとすれば、そこでもただ、自分が「Performan」だという事を再認識させられ、しかし、それでも生きている以上はそれを受け入れていくしかないという、変わりない、だが前向きな答えだった。

彼が我にかえると、絵描きの筆は進んでいた。キャンバスの数だけの設計図が描かれていた。そしてそのどれにも、サインとともにこう記されていた。
serihu12.png
_DSC0321.JPG彼はかつて父親が口にした疑問を絵描きに向けた。「『何か』に動かされているならどうして自分達は存在しているのか。生きている事に意味があるのか。」「わからないならば堕ちていけ。」絵描きは持っていた筆で地面に点を穿つ。するとたちまち地面に大きな穴が開いた。暗闇の中に目を凝らして覗いてみると、漏斗状の大穴は地球の中心にまで達しているようである。それは「Inferno(埋立地)」と呼ばれている所。「何か」に抗い、人間としての個性を取り戻そうと試みた愚かな律動人型達が永遠を暮らす場所。
_DSC0441.JPG穴の底で誰かが叫んだ。彼にはその言葉が耳に残った。絵描きは声を冷やかに受け止めてた後、ゆっくりと歩を進め、穴の中へと降りて行く。彼は闇の中に消えて行く絵描きの背中を追いかけていた。もしかしたら、父親もこの中にいるのかもしれない。ただ、父親を探しているわけではない。自分はまだ世界の端に立ったばかりだ。その中心部には何があるのか。その好奇心が、彼を穴に向かわせる。穴の中から聞こえた言葉がどうしても気になったのだ。それは昔の偉大な哲学者の言葉のように思えた。
serihu11.png
_DSC0532.JPG絵描きの姿はすでに見えなくなっている。しかし彼は気づきつつある。自分たちを支配する「何か」とは、自分たちを設計した「the Creator(創造主)」そのものではないかと。そしてそれは、あの絵描きの事なのではないかと。

about.pngabout.png

inferno.pnginferno.png

cast1.pngcast1.png

chara.pngchara.png

archives1.pngarchives1.png

photo1.pngphoto1.png

movie2.pngmovie2.png

















































tsuhan.pngtsuhan.png

kousiki.pngkousiki.png

keikoba.pngkeikoba.png

facebook.pngfacebook.png