随分と線引きの甘い地図【物語背景】 of シアターグリーン3劇場連動企画

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かつてAL[エル]は大規模な反乱を起こした。人によって使い捨てられ、それでも人格を有したこの不思議な存在は、人と同様に、傷つけられた尊厳と軽んじられた生命への抵抗として公然と人類へ反旗を翻した。183日間に渡って繰り広げられた戦争は、そのわずかな時間で双方の社会に深刻な犠牲をもたらしたが、最終的に人類の勝利に終わる。人類にとっては自ら地上の半分を居住不可能なまでに破壊し、汚染した末の、喜ばしからぬ勝利であった。残されたALは半分が抵抗の意思を捨てずに処分され、半分は再び道具となって酷使される道を選んだ。1年の半分を費やし、世界の半分を失い、ALの数を半数にする事となったこの「Gerra Erdia(半分戦争)」と言う大戦は、既に歴史書の中での事象である。そのような苦い過去の経験から、人類の間ではいつしか、ALとは憎悪し蔑む対象として教え伝えらえてきた。

そして現代、陸地面積が半分になったこの惑星では、愚かしい人間達が残りの半分の占有を賭けて2つの勢力に属して争いを続けている。BISKIA[ビスキア]の村は前線とは無縁の土地だった。戦略的な価値があるわけでもなく、目立った産業もない。昔からの伝統を重んじ、誰もがつつましやかに暮らす田舎町であった。その日常が狂い始めたのは、まさにここが国境と定められた時である。2つの軍勢が引き上げる事になった日、鉄条網が村のちょうど中心部に引かれ、村は東西に分割されたのである。多くの者はここでも事態を重く見てはいなかった。国境など両国が勝手に決めたもの。自分たちの生活を隔てるものではないと。その時、偶然にも村の東側にいたある男は、自分の住む西側の家へ帰ろうと壁を越えようとしていたが、大勢のAL兵に阻まれる。それでも強引に突破して、国境に手をかけた瞬間、彼は意識を失った。彼だけではない。同じようによじ登ろうとした者も、破壊しようとした者も、鉄条網に触れた途端に、その場に崩れ落ちた。そして、両側の通行は完全に禁止された。自分たちの暮らしていた村の中を、自由に行き来できない。それどころか、自分が住んでいた家に帰る事すら不可能となった。

初めは激しく抵抗した村人達だったかが、頑なな当局の姿勢には、諦めの空気が漂い始めていた。時に不便であり、分断された家族などもいる事は確かに不幸であったが、いずれこの国境も取り払われて、元の暮らしができる事を誰もが願っている。だが、その願いとは裏腹に、鉄条網はいつしか壁となり、その壁は日に日に高さと厚みを増していき、村の唯一の門まで塞いでしまった。今や、彼らが簡単に破壊できるものではない。

事ここへ至って村人たちは、自分たちが置かれた状況が想像以上に深刻であると知る。壁で囲われた真の目的はわからず、住民たちは不安の中で生活を強いられていた。門を壁で塞がれた一部の商人や、ur[ウル]を汲みに行く者、農作業をする者は、必要にかられて壁を伝い、村の外へ出る梯子を降ろしたのだった。この頃になると、東西はそれぞれの自治を迫られるようになった。元々の村長をもつ東側に比べ、西側は何かと纏まりを欠くため、独自の代表者を選ぶ事にした。その選挙の日、西側の村に男が担ぎ込まれた。この近辺の者ではないらしく、顔に見覚えのある者もいない、とある夫婦の家に担ぎ込まれて篤い看病をうけ、快方に向かった。やがて目を覚ました男は自分がALだと名乗った。

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