檻の中にいるのはお前の方【物語背景】 of シアターグリーン3劇場連動企画

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不幸にも国境が引かれたBISKIA[ビスキア]の東西両民はur[ウル]を汲む為に壁を降りた井戸の周辺・Plazak[プラザ]でのみ顔を合わす事が出来るが、そこはできれば長居をしたくない外の世界であり、また、双方、輪番で見張りを立て行き来を厳しく取り締まる事が義務付けられた国境の最前線である。現在、村には3種類の人がいる。分断された事を渋々ながらも受け入れ、諦めながらも生活を享受する者。公然と反抗し、時に国境を破壊しようと試みる者。そしてわずかな3番目の類型は今、地中を掘り進む。表面上は平穏に暮らす顔を持ちながら、誰よりも諦めの悪い者達だった。ある者は、urを巡るいざこざに嫌気がさし、またある者は、離ればなれになった家族や恋人の姿を追う。動機は様々であったが、共通しているのは、国境への憎悪と、それに対して道を切り開こうとしない村の連中への苛立ちであった。当局は今の所、表立って取り締まってはいない。どうせ無駄な事として、嘲笑しているに違いない。それでも国境に対して無謀に挑むよりは、遙かに意味がある事のように思える。壁がなくならないのであれば、せめて望むのは東西の自由な往来であり、彼らが最後に考えついたのは、地面の下を掘り進める事だけであった。

BISKIAの村長は村が分断される以前より、ERE当局によってある部屋の管理を任されていた。現在この部屋には3人の男女が閉じ込められている。管理と言われても、立ち並ぶ前文明機器の使用方法などわからず、ただただ部屋の様子に変化がないか、中の者達に異常はないかに気を配り、何より神経を尖らせたのは、この部屋の存在を村の誰にも知られてはならないという事であった。当局はこの部屋を牢獄だと説明し、Bastille[バステル]と称していた。牢獄である以上、この3名は何かしらの罪人なのだろう。現在、この部屋の存在を知るのは村長と、囚人の為にここへurを運ぶ家人の数名に限られた。この仕事の意義はわからないままだが、村長には一つの憶測が働いている。この者達は、我らが忌み憎むべきAL[エル]なのではないかと。

Bastilleは牢獄と言っても檻はない。檻はなくとも3人は逃げようともせず、男女一緒に投獄されていても、不思議と秩序を保っている。それがこの牢獄のルールであった。彼らにはそうしなければならない理由があり、もしそれが自分達の身に危害が加わるだけの事であれば、気軽にここから逃げ出す可能性に賭けたかもしれない。しかし、自分たちの座っている床の下に眠る暴虐な装置の事を考えると、迂闊な事も出来ずにジレンマに陥っていた。部屋の上部に取り付けられた表示機から「3」の数字が彼らを照らしていた。

ある日、西側から地中を掘り進む男は壁の向こうに違和感を感じた。今までのような土砂ではなく、確実に空間を感じさせるものだった。こんなにも早く貫通するとは思ってもいなく、また、現実的にもあり得ない事ではあったのだが、高揚した彼の中では、その疑いは片隅に追いやられる。彼が貫通させたその向こう側は、予想していたような逆側からのトンネルではなく、小さな部屋であった。そこには大昔の大戦で衰退したはずの前文明の機器が配置され、驚くべき事に今もまだ作動している。何故このような物が村の地下にあるのか、何の為の部屋なのか。あまりの事に彼の思考は停止した。その一因は、その部屋に3人の男女が閉じ込められていたからである。
たった数名が知るのみであったこの部屋の存在は、今、明るみになろうとしており、それは同時に、一歩間違うと破滅のカウントダウンが始まったとも言える。

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