▼君臨する王は根拠も不明な絶対的かつ神聖な権力を有し、法を用いて私欲の為に民衆を支配した。
愚昧な王は時に自らの欲望を満たすため、民衆の財産を自由に収奪し、周辺国への野望により戦争を繰り返す事で民衆の生命を徴発する。無知で愚昧な王の発する法律は毎日のように増えていき、それに服さない者は容赦なく処刑されていった。稚拙で無知で愚昧な王の圧政により国家は荒廃したが、人々はそれに抗う術も持たず、阿呆で稚拙で無知で愚昧な王の機嫌を損ねないように、息を殺して日々の生活をただ送っていた。
▼島の北端には小さな村があり、王の名代たる代官によって統治されていた。この村も例外なく、法によって厳しい徴発と役務に悩まされている。代官は村人達に深く同情しており、彼らの不満が悪い方向へ暴発しないよう、持て得る限りの誠意と慈悲を持って治めていた。だが、とある王命を機に村内では小さな論争が起き、いつしかそれは王政への不満へと変わっていき、やがて村人たちの手に武器取らせるまでに至った。代官はその行為が彼らの為にならないと憂い、必死になって説得を続けるのであった。
▼同じ時期、王宮内では宮宰によるクーデターが起き、王はわずかな側近を伴って落ち延びた。その事実はこの小国の、更に辺境のこの村までにはまだ行き届いていなかった。それが証拠に、村に自分が王であると名乗る男が現れても、誰一人として信用しなかったのである―。
▼誰かが思い付きで提案する。過去の法である「モナーク」を使用して島内に秩序をもたらす事はできるのか、と。こうして彼らは、まずは自らの身を守る為、昼間に法を作り、夜中に等しくあの王国の夢を見る。