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1948年1月。GHQ統治下の東京豊島区の東邦銀行にて薬物による強盗事件が発生。
警察の捜査とGHQの介入によって一人の男が逮捕された。
その半年後、大日出版の週刊誌編集部に平井(廣瀬響乃)という女が訪れる。
応対した文芸部記者の児玉(熊坂貢児)と、社会部の腕章をした新人記者・和泉(小泉智雅)に、平井は、父の冤罪を訴え、記事にして欲しいと依頼する。同情的であった和泉と対象的に、そっけなく依頼を断り部屋を出ていく児玉。
1人になった編集部で平井は、供された湯呑みに薬を入れ服毒自殺を図る

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以上は、作家の嵯峨(新野アコヤ)が、文精堂から出版する新作の一部である。実際にあった事件を元にした作品ではあったが、編集者の山部(道井良樹)、双葉(なしお成)、立花(小林知未)は難色を示す。昨今の社会の風潮から、命を軽視したかのような表現にゴーサインを出すのに躊躇いがあった。今は、過度に不寛容な社会であり、不適切なものは簡単に糾弾されうる社会である。双葉はそれを慮って、嵯峨に削除もしくは書き直しを依頼する。作中で人を死なせるような表現はやめてもらいたい。嵯峨はその要求に納得してくれたかのように見えた

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野村(吉岡優希)は郵便局に勤めていたが、この日は休みを取って、大日出版へ訪れる。年の初めの頃に、何者かによって姉が殺害された。ところが大きな事件にもならず、警察もまともに取り合ってくれない事に不信感を抱き、追及記事を書いてもらうよう社会部を頼ってきた。折しもこの日、駅前で猟銃の発砲事件があり、社会部員たちは出払っており、仕方なく文芸部に案内される。文芸部では記者の河野(坂本ともこ)が藤丸(片桐俊次)という得体のしれない男の取材を行う予定であった。その編集部の一角で目を覚ます双葉。傍らには大日出版の受付事務を名乗る嵯峨が立っていた。双葉は自分が、嵯峨の作品世界の中に存在して、この出版社の一編集者である事を、半信半疑ながらも自覚し始める。

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同様に山部は編集デスクとして、立花も編集者としてこの世界に存在していたが、彼らはまだ、自分達の状況に気付いているのかどうか、双葉にはわからなかった。彼らは彼らで、この世界の中の人物として、自分たちの問題に向き合っている最中だったのである。別室で、立花は、中途採用の編集者・井上(小原雄平)の頼みで神沢(下平久美子)という素人作家の持ち込んだ原稿に目を通していた。週刊誌での連載および出版を希望する神沢達であったが、それは明らかにシェイクスピア作品を丸写ししたものであり、許可を出せるわけが無かったが、神沢はその事をまるで気にかけていない様子であり、井上は悲壮な覚悟で、連載許可を迫る

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元極道の政治ゴロとして悪名高い天下(ドロンズ石本)とその構成員・関野(緑川大陸)
がかつて書かれた自分たちに関する記事の訂正を求めて編集部に居座る。記事を書い
たのは当時は一記者だった山部であるが、戦時中の天下の武勇伝である内容が不適切
であると判断し、勝手な判断で全く違う記事を掲載した結果である。天下は訂正に応じ
るまで、一歩も引かない構えを見せていた

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一方編集部に平井という女が訪れる。応対した文芸部記者の児玉と、社会部の腕章をした新人記者・和泉に、父の冤罪を訴え、記事にして欲しいと依頼する。その光景を目撃した双葉は、それが嵯峨の作品の書き直しを要求した一場面だと思い出す。作中通りであれば、平井はこの直後死ぬ。それはまた、不適切な表現としてこの作品が出版できず、ひいては登場人物たちもすべて消滅する事でもあると嵯峨は告げた。1人になった編集部で平井は、供された湯呑みに薬を入れ服毒自殺を図ろうとする。それを双葉は思いとどまらせる。作品世界を消滅させない為に

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双葉が気づくとそこは再び嵯峨の書斎であった。あの作品世界は夢なのか現実なのか判断に困っていると、山部が作品に対して更なる要求をしていた。双葉の心配とは対照的に、山部も立花も、自分たちが作品の中に生きていた自覚などないようであり、山部は無責任に作中での暴力表現の排除を依頼したのである。嵯峨は面白そうにほほ笑んだ。
作品世界の中では、天下の手の者が要求を通すため編集部の建物を外から封鎖する事態になっていた。要求が通るまで、誰も外に出られない状態である。編集部の廊下で途方に暮れていた平井とそれを慰める和泉を見かけて天下は、平井が世間を騒がせている東銀事件の犯人の娘である事に気付く。そしてそれは同時に自分の実の娘であることも

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河瀬は編集長から別の仕事を頼まれており、一向にすすまない藤丸の取材に苛立ちを隠せないでいた。かつて出版した「かしこいへび」という絵本がGHQの検閲に引っかかり、修正をしなければならない。しかし作者の江川君代という女性作家の行方は分からず、連絡の取りようがなかった。このままでは発禁処分を待つしかなかったのである。
立花に無理矢理原稿を押し付けた神沢は、後は井上に任せ帰ろうとしていた。そこで机の上に置かれた絵本に目がとまる。彼女はその絵本に、数年前にいなくなった息子との特別な想いを巡らせていた。彼女こそが、その作者「江川君代」であった。しかし発禁処分と聞かされ、愕然とする。

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建物の玄関ホールで、関野は和泉に出くわし、平井との関係を糺す。平井は幼い頃に天下から引き離されていった実の娘であり、関野としても和泉との関係を気にしないわけにはいかなかった。和泉は「何かの運命」だと説明した。それは関野は恋愛関係だと思い込む。そこへ井上がやってくる。彼らには「天下一家」「神沢組」として抗争を繰り広げてきた極道としての因縁があった。自分の不手際で神沢の夫である先代組長を殺害された井上は、関野を前にして怒りを抑えて建物の封鎖を解くように忠告する。しかし関野は逆に井上を挑発し、一触即発となる。嵯峨の作品世界に存在してると言う実感を得た山部は、暴力表現によって作品が消えてしまうかもしれないと知り、今にも殴り合いそうな井上と関野の間に割って入る

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児玉はかつて社会部の記者として、GHQ批判の記事を書いた。その為に文芸部へ異動を命じられて、山部の監視の元、好き勝手な取材は禁じられていた。しかし、何かを恐れて平井や野村の訴えを聞こうともしない山部のやり方に反発し、勝手に野村への取材を始める。
野村の姉は、事件のあった東銀に勤めていたが、事件のあった当日は野村と会う約束していた為、少し早めに職場を後にした事から難を逃れた。その後、待ち合わせの喫茶店でGHQの兵士とと出ていった後、遺体で発見された。児玉と河瀬は、この事件が表沙汰にならないのはプレス・コードの為だと思い至る。

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絵本「かしこいヘビ」の作者が神沢だと知り、事情を話す双葉と立花。絵本には神沢の息子「イズミ」への強い思いが込められており、簡単に書き直しに応じてくれそうもない。持ち込んだ原稿を載せる事も出来ず、唯一の作品も発禁処分となる事に、立花は同情的になる。天下は、行き違いから「東銀事件の真犯人を知っている」人物だと誤解される。真相を聞きたがる平井をかわす為に、天下は関野に真犯人を騙るように命じる。一方、和泉は平井の父親の冤罪を訴える為に、自らが東銀事件の真犯人だと名乗る事にする。平井は思いとどまらせようとするが、和泉は平井を連れて編集部の一室に立てこもる。そこには先客として関野がいた

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騒然とする編集部は、和泉の素性を洗いだす。受付の名簿に「神沢イズミ」と記載していた事から、行方知れずとなっていた神沢の息子ではないかと判明する。息子との突然の再会に言葉を失う神沢の傍らで、平井を人質にした事で逆上する天下。かねてから因縁のある2つの家は、ここで再び抗争を始めるかに思われ、暴力沙汰を避けたい山部と双葉は神経をすり減らす。立花は一計を案じ、神沢が持ち込んだシェイクスピアの物語にみたて、平井と和泉を恋仲に仕立てて、天下と神沢の手打ちを目論む。しかし、立花は自覚がなかった。嵯峨に対して、作中の恋愛表現を削除するように要請したことを。

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天下によって事件の真犯人に仕立て上げられた関野に対し、児玉は質問攻めをする。ところが事件の概要について詳細に答えたのは和泉であった。真犯人しか知りえない事柄まで語る和泉に、平井は言葉を失う。和泉がこのような行為に及んだのには、理由があった。世間の誰も知らない東銀事件の真相。彼もまた何も知らず、指図されてその一端を担わされた。
GHQは何らかの理由で真相を隠し、全く無実の平井の父親をスケープゴートにした。それを世間に知らしめる為の行動。すべては事前検閲を恐れ、真実を書こうとしない報道に対する身をもった抵抗でもあった。編集者たちは、今、その矜持が問われていた。

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気づくと3人の編集者は嵯峨の書斎にいた。夢か現実かわからない作中の出版社で、自らが要望した表現の削除によって自らの首を絞める愚を味わった双葉と山部は、嵯峨に自由な創作を勧め、辞去しようとする。
最後に嵯峨はこう言った

「今いる自分たちも、誰かの創作物の中の登場人物なのかもしれない」と。

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