概要 of #025 PerformenVI~Paradiso~

A0031.JPG
A0137.JPG

aori1.png
大きな文字盤と、天辺に尖塔を持った時計台からはまだ雫が滴っている。彼は雨のあがったばかりの水たまりを避けて、天高くそびえる時計台を見上げた。
その時計技師を見かけたのは、珍しく時計の針が止まっていた時だった。時計技師は遥か上空で文字盤を開き、中の機械を鼻唄交じりにいじっていた。歯車同士の大きさを測り、距離を測る。複雑なようでいて単純な歯車の仕組みが大時計を動かしている。その時計の構造は彼がまだ少年だった頃、父に買い与えられた「パフォーマン」という動く人形の中身と全く同じだった。

DSCF0542.JPG少年だった頃、彼は父親に育てられた。父親は世の中を至極退屈なものだと捉えていた。人間は一見、自分の意思を持ち、それに従って生きているようだが、実際はそうではなく、もっと「何か大きな意思=運命」によって生かされているにすぎないのだと、父親は常々ぼやいていた。父親は度々、それを「歯車」というわかりやすい言葉に置き換え、また自らも歯車の一部だと嘯いたが、それでも少年には、どういう事かわからなかった。
0006.jpg少年は日々、自分の意思で生きていると思っている。
腹が減った時には何かを食べ、のどが渇いたら何かを飲み、眠くなったら眠る。常に自分の事を決めているのは自分自身であると、疑う余地もなかったはずだ。だが父親は言う。「人は、何かに動かされていても『自分で動いている』と思い込む事が殆どだ。」と。その姿は、まるで人のように律動する人形「Performan(パフォーマン)」なのだと。
DSCF0869.JPG日常の世界は何の変哲もないように思えるが、言いかえれば、毎日毎日同じ事を繰り返しているだけだとも言える。人々は毎日同じレールの上を延々と歩き、あの大時計のように毎日同じリズムを刻み続ける。そしてそれは、少年が思っていたのと同様に、すべて自分の意思であると思いこんでいるに違いない。「何か大きな意思」に生かされているとも知らず。

「『何か』に動かされているならどうして自分達は存在しているのか。生きている事に意味があるのか。」
父親はその疑問を持ち、「何か」に対して反乱をおこし、一人戦いを挑むが、その度に敗れた。
戦う父親の姿を見ながら、少年は成長する。
「Performan」は自分たちを産み出した「何か」に勝てない。
世界には抗いきれない「運命」というものが包んでいて、人はそれを飲みこんで生きている。
身をもってそれを教えてくれた父親は、今はもういないが、それも「運命」だという事も知っている。

aori1.png
DSC_0100.JPG父親の様に、かつて「運命」に叛い、自分を「意志ある人間」と宣言した際に刻まれた罪の焼印。人間を縛る「生と死の根源」を探るため、神の機嫌を損ねる事も厭わずに、錬金術師の弟子たちと楽園の東端を目指し山を登った彼であったが、その頂に神の正体はなく、ただただ己の弱さや脆さを改めて思い知るだけだった。

DSC_0114.JPGだが彼はそれでもいいと思っている。自分の足で登り、自分の頭で考えた結果であれば、それは他の日々を無為に生きる、文字通り「生きているだけ」の人間とは違う。
やがて刻印は薄くなり彼は焼痕の痛みを忘れて、日常をまた画一的な人間として暮らしている。

気づくと時計技師は、一つの大きな歯車を外し、それを塔の先端に差し込んだ。
彼の頭上から時計技師の歌が聞こえてくる。
copy.png
A0086.JPG彼はかねてから持っていた疑問を時計技師に向けた。
「『何か』の意思に動かされているならどうして自分達は存在しているのか。全てが運命の歯車の上にあり、その回転に委ねているだけならば、自分たちの生きている意味はどこにあるのか」
「答えはソレのみぞ知り、ソレはこの回転の高みにいる」
時計技師は時計台の頂きを指差す。
A0018.JPG時計台だと思っていたそれはかつて、錬金術師の弟子達と上りつめた山だった。見上げれば尖塔に挿した歯車は回転を始めている。夜空に浮かぶ星々も、月も惑星も、この塔の先端を中心に回転を始める。上空には、一つの点を中心とした、大きさの異なる幾つもの同心円が延々と広がっていた。それは「Paradiso(遊園地)」と呼ばれている楽園。
人間としての個性と自由を棄て、あるべき姿を範した、神に気に入られた者たちが住む理想の世界。
A0138.JPG時計技師はゆっくりと天へ召されていく。自分は世界の形に触れつつある。あの果てに追い求めた「ソレ」がいるのか。その好奇心が、彼の意識を空に向かわせる。空の彼方から、誰かの声がこだまする。それは昔の偉大な哲学者の言葉のようにすら思えた。

copy2.png

A0019.JPG彼は胸に痛みを伴った熱さを感じた。見ると「P」の刻印が再び浮かびあがっている。自分は人間だと勘違いした人形なのか、それとも人形だと思いこんだ人間なのか。自由な意志を認めては忘れ、再びまた思い出す。常にその繰り返しだった。全ては「その存在」を感じているから。はたまた感じていると錯覚しているから。彼は思う。結局、神はいるのか、いないのか。神と人、要らないのはどちらか。楽園の一番の高みへ行き、実際にこの目で確かめてやろう。これがきっと、最後の旅になるだろうから。

about.pngabout.png

paradiso.pngparadiso.png

cast1.pngcast1.png

chara.pngchara.png

archives1.pngarchives1.png

photo1.pngphoto1.png

movie2.pngmovie2.png





















































kousiki.pngkousiki.png

keikoba.pngkeikoba.png

facebook.pngfacebook.png